「翻訳は簡単」と甘く見てはいけない

「翻訳は簡単」と甘く見てはいけない

本ブログを通して何度も説明している様に、プロの翻訳を甘く見てはいけません

語学試験の点数と翻訳力を結びつけることは、大きな間違いです。

確かに、語学試験で試される語学力と翻訳のスキルに共通点はあります。

しかし、この二つは別次元の能力です。

Dr. 会社員は数年前に、取引先のプロジェクトマネージャーから品質管理の相談を受けました。

Web会議システムを紹介する英語のマーケティングコピーの日本語訳を納品したところ、クライアントから苦情が来たので、何がいけなかったのかを調べているとのことでした。

この品質管理の一環として、コメントを求められたのです。


原文の解釈は間違っていない

原文の解釈は間違っていない

Dr. 会社員は翻訳チェックや品質管理系ジョブ全般は基本的にお断りしているのですが、この時は何故かオーケーしてしまいました。

(やや後悔しつつ)問題の和訳に目を通すと、これは英文和訳で非常によく目にする典型的な珍訳であることが分かりました。

実際の原文と訳文を少し変えたものを以下に記します。

【原文】

Introducing additional instruments to the room setup is an effective way to improve user experience in general. That being said, conference organizers are always exploring for ways to boost user experience even further and to avoid having to plug in numerous cables.

【和訳】

部屋のセットアップに追加の機器を導入することは、全般的なユーザー体験を向上させる効果的な方法です。しかし、会議の主催者は、ユーザー体験を向上させ、たくさんのケーブルを差し込んで接続しなくてもよい方法を常に追求しています。

確かに、原文の解釈は間違っていません。

しかし、日本語の記述に深刻な問題が発生しています

厳しい意見ですが、この和訳はマーケティング用の文章としての役割を果たしていません。


変な日本語を書いてはいけない

変な日本語を書いてはいけない

英語から日本語への翻訳で、品質を左右する決定打は「日本語の読みやすさです。

もちろん、それ以前に誤訳があってはなりません。

翻訳家として収入を得たいなら、誤訳は論外です。

確かに、人間が行う作業なので、疲れていたり気が散っていたりすれば原文を読み違えることはあります。

また、原文が上手く書かれていないと内容を勘違いすることもあります。

それでも、プロの翻訳家である以上、誤訳は極限まで抑えるというコミットメントが必要です。

誤訳がほぼゼロ、というレベルが翻訳家のエントリーレベルでしょう。

その上で翻訳家として業界で生き残れるかどうかを左右するのが、訳文の記述力です。


まとめ

まとめ

今回の投稿では、翻訳を甘く見てはいけないという考えを、実例を挙げて説明しました。

上記の品質管理ジョブでチェックした和訳は、ドキュメント全体が非常に理解しにくい日本語で書かれていました。

この件を担当していたプロジェクトマネージャーには、「原文はほぼ正しく解釈されているが、訳出先の日本語の記述に問題がある」ということを伝えました。

あの訳文の書き直しを「翻訳チェック」として校正すると、既にある訳文に引きずられてしまうため作業に膨大な時間がかかると思います。

妙な日本語になってしまった和訳を何とかしたい場合は、妙な日本語を基に文章を練り直すのではなく、一から翻訳し直した方が早いし、品質も改善できるとDr. 会社員は思っています。