誤訳が多くなくても、問題の多い翻訳

誤訳が多くなくても、問題の多い翻訳

翻訳という仕事は、誤訳さえしなければよい、というものではありません。

Dr. 会社員は、今までに「誤訳が多いわけではないが、問題が多い」訳文をたくさん目にしてきました。

巷で使われている「誤訳」という表現は主に、原文の読み間違いを指しているのだと思います。

原文の解釈は、翻訳作業の前半部です。

問題のある訳文とは、誤訳がある訳文だけでなく、原文が正確に解釈されていても、訳文内で奇妙な言葉で表現されている「珍訳」も対象になります。

Dr. 会社員が目にしてきた限りでは、翻訳の現場では「誤訳」よりも「珍訳」の頻度が高い気がします。

よくあるパターンを以下で説明します。


翻訳していない

翻訳していない

英語から日本語への翻訳の場合は、英語の表記をカタカナに置き換えただけ、そして日本語から英語の翻訳では、日本語をローマ字表記しただけ、という訳文をたまに目にします。

英語から日本語への翻訳の場合、カタカナ語が定着している言葉は確かにありますが、自分の知らない英語を次から次へとカタカナで表記するのはやめましょう。

最近見た例では、

キープフィット

と書かれた和訳がありました。

日本人の読者はほとんど分からないと思います。

以下の様な文が、最初から日本語で書かれた文章に出現することは、まずありません。

本プログラムは
皆様のキープフィット
サポートします

「Keep fit」とは、「(定期的な運動を通して)健康的な体型を保つ」という意味です。

一対一で対応する語句がないからといってカタカナに置き換えるのではなく、ちゃんと日本語で表現しましょう。

逆方向、つまり日本語から英語では、「学習指導要領」が、

Gakushu Shido Yoryo

と書かれているのを目にしたことがあります。

これは日本研究の専門家や日本を担当している役人等、日本語に達者な英語スピーカーになら何とか分かってもらえると思いますが、一般的な英語スピーカーには全く通じないと思います。

「Japanese national school curriculum guidelines (Gakushu Shido Yoryo)」と表記すれば大丈夫ですが、日本語のローマ字変換は、翻訳ではありません

日本の行政関係用語や法律用語はものすごく長い上に、個性的な表現を多用している(例:名称に「等」が入る)ので、英語に訳す際は工夫が必要です。

ネットで見つかる定訳には、英語スピーカーにはちょっと分からないのでは?というものがかなりあるので、自分で調べて正確に訳す必要があります。

ただし、クライアントによってはどんなに奇妙な定訳であっても現存の定訳を使いたいという人がいるので、都度確認が求められます。


「あなた」を連発

「あなた」を連発

英語から日本語への翻訳で「あなた」を連発するのは絶対にやめましょう。

分かっている人は多いと思われる一方で、本番では翻訳者が次々と記憶喪失を発症しているようです

Dr. 会社員は、「あなた」で埋め尽くされた訳文のチェックをした経験が数知れずあります。

日本語の文章で「あなた」を使うのは、非常に特殊な場合に限られます。

以下の様な文を日本語で書く日本人は、いません。

あなたが当社のサービスを
利用したということを、
あなた
の家族や
あなた
の同僚が
知ることはありません。

今上記を読んで鼻で笑った人は多いと思いますが、現場では本当に「あなた」まみれの訳文に遭遇します。

また、「これ」「その」「それら」といった指示語の直訳が多すぎて、謎解きの様になっている訳文もあります。


カタカナ語の誤用

カタカナ語の誤用

英語から日本語への翻訳では、カタカナ語を誤用しているケースが散見されます。

カタカナ語と化した言葉は、オリジナルの英語とは少しニュアンスが変わっている(ジャパングリッシュ化している)場合があるので、使用する場合には注意が必要です。

Dr. 会社員が以前見た訳文には、

アクセス

の訳し方が不自然なものがありました。

当院では、
地域の皆様に
最高の医療へのアクセス
提供しています

翻訳者が原文を理解できているのは分かるのですが、この訳文を読んだ日本人は間違いなく違和感を覚えます。

英語の「access」は、場合によっては日本語で「アクセス」と表現できますが、毎回「アクセス」と書くのはいただけません。



まとめ

まとめ

今回の投稿では、誤訳が多くなくても、問題の多い翻訳の例を紹介しました。

誤訳、というのは原文の読み違いであって、翻訳作業の前半でのエラーを指します。

一方、翻訳とは原文を読むことが作業の全てではなく、理解した原文の内容を訳文として記述することで初めて完成します。

巷では翻訳者の「誤訳」に批判が集まりがちですが、実際の頻度は、訳文が奇妙な「珍訳」の方が多い気がします。