英語の和訳では、不自然な日本語に注意

英語を訳す際は、不自然な日本語に注意

英語を日本語に訳す際には、読みやすい日本語を心掛ける必要があります。

今回の投稿では、高頻度で不自然な日本語に訳されている「It is」を例に挙げます。

学校の英語の授業で、無生物主語とか「It 構文」という項目で習う文法だったかと記憶しています。英語では非常によく用いられる言い回しなのですが、パターン化された文法に忠実に日本語に訳すと妙な訳文になることがあります。

英語の授業で習う文法は、日本人が英語を学習する上で欠かせないことは確かなのですが、翻訳の世界ではその文法の知識がかえって足を引っ張るという皮肉な展開になることが度々あります。

以下で、「It is important that…」の和訳を少し詳しく分析します。


以下に示すのは、患者さん向けの英語のウェブサイトで見つけた文を少しだけ変えた文です。

“It is important that
you and your family are able to trust the family doctor
that you choose.”

上記の例を

あなたとあなたの家族が、
あなたが選んだかかりつけ医を
信頼できることは重要です。

と訳すと非常に不自然な日本語になります。

問題点 1:日本語の「あなた」は英語の「you」と文法上では同義でも、使用する文脈が大きく異なります。

問題点 2:「…が重要です」という言い回しは日本語にありますが、英語の「It is important that…」とは少し異なる文脈で使います。


You の訳出

You の訳出

過去の投稿で何度か触れていますが、you を直訳するのは基本的にタブーです。

上から目線になりすぎます。

翻訳で収入を得ている人の中にも意外に「you」を「あなた」と書く人がいるので、翻訳者にとっては、特に集中力が途切れてきたときに気を付けるべきポイントと言えます。

では、「you」の訳出を少し工夫します。

自分と家族がかかりつけ医を信頼できることは重要です。

これで「you」は解決しましたが、まだ問題は残ります。


文法に忠実すぎる翻訳は、不自然

文法に忠実すぎる翻訳は、不自然

自分と家族がかかりつけ医を信頼できることは重要です。

この文章は、文法上問題はありません。よって、試験の英文和訳問題でこういった回答を記入した場合は正解となるでしょう。

ただ、翻訳の商品価値としては、

中の上

位かと思います。

最初の訳例

あなたとあなたの家族が、あなたが選んだかかりつけ医を信頼できることは重要です。

については、文法上問題はまったくありませんが、翻訳の品質としては

下の上

と判断します。

和訳問題の回答例のような翻訳が問題である理由を以下で説明します。

「翻訳感」溢れる文章は、文章の内容に向けられる読者の集中力を妨げます。

読者は文章の内容よりも、変な日本語が気になってしまうのです。

クライアントから特殊な事情で、翻訳であることが一目で分かるようにしておいて欲しい、と依頼されている場合以外は、翻訳では自然で簡潔な表現を心掛けるべきでしょう。

とはいえ、翻訳の試験などでは原文の構文に忠実な訳でないと、採点者の裁量で減点される可能性があります。

こればかりは、個人の採点者や学校の方針次第なので、どうしようもありません。

しかし、この点はあまり気にしなくていいと思います。なぜなら、そもそも翻訳で収入を得るために翻訳学校で良い評価を得る必要はないからです。

ここは

目的(翻訳家になる)

手段(翻訳スクールに通う)

を明確に区別すべきポイントです。

過去の投稿で触れたように、資格や学位にこだわりすぎることは危険なのです。


自然な和訳ほど、逆翻訳が変

自然な和訳を逆翻訳すると、原文の意味とかなり違う

翻訳を依頼する人の立場になってみると、ベストな翻訳は明らかでしょう。

というわけで、先ほどの訳例を可能な限り自然な日本語に近づけると、以下の様になります。

家族のかかりつけ医を信頼できるかどうかは重要です。

この訳例は、文法的な構成が原文と異なるのですが、原文が書かれれた文脈をより効果的に反映していると思います。

翻訳業界では back translation(逆翻訳)といって、訳文を原文の言語に訳し直して、元の原文と照らし合わせる作業が行われることがあります。

品質管理の一環として行われるのですが、Dr. 会社員は自分自身の経験から、日本語と英語のペアについては特殊な場合を除き、逆翻訳はかえって混乱を招くケースが多いと感じています。

逆翻訳と原文を比較して、笑いのネタにしている動画が、YouTube でたくさん見つかります。

さて、上記の

家族のかかりつけ医を信頼できるかどうかは重要です。

を、文法に忠実に英語に逆翻訳すると、考えられる英訳は何通りかありますが、以下の様になります。

It is important whether it is possible to trust the family doctor or not.

It is important whether it is possible to trust a family doctor or not.

Whether or not it is possible to trust a family doctor is important.

日本語のこの一文だけを基に英訳すると、family doctor の冠詞に「a」を選ぶべきか「the」を選ぶべきか判断しかねます。意図された読み手によっては「your family doctor」が適切かもしれません。

英語の「a」と「the」はどちらを選ぶかによって、意味に大きな違いが出ます。

これについてはまた別の投稿で説明します。

冠詞の問題以外にも、上記の和文英訳は問題が満載です。基本的に、日本語から英語への翻訳で日本語の文法に忠実に訳すと、英語から日本語への翻訳以上にとんでもないことになります。

注意すべきポイントがありすぎてここでは書ききれないので、英訳については別の投稿で書きます。


まとめ

まとめ

今回の投稿では、英語を日本語に訳す際には、日本語に気を付けることが大事である理由を説明しました。

質の高い和訳を生産するには、原文を解釈する段階では原文の文法に注意を払いつつ、原文に込められたメッセージ、つまり筆者の意図を理解する必要があります。そして訳出時には、文法にとらわれず日本語を書く必要があります。

さらに、質の高い和訳を英語に逆翻訳すると、かなりの確率で原文と異なる文章となることも説明しました。