翻訳プロジェクトの多くにはチェックがもれなくついてきます。
どんな有能な翻訳者でも人間です。
一人の人間が書いた文章が初校で完璧ということは、あり得ません。
報道機関や出版社には必ず凄腕の校正者がいて、プロのジャーナリストや作家が書いた文章を出稿、出版する前に徹底的に校正しています。
翻訳でも同じことです。
凄腕の翻訳者が手掛けた訳文であっても、チェック作業はやはり必要なのです。
ただ、Dr. 会社員が今まで15年程翻訳業に携わってきて感じるのは、翻訳業界には上述した様な物書きの性質を理解していない人が多い、ということです。
また、出版やマスコミでの校正者と異なり、翻訳チェッカーには改悪常習犯や無意味に訳文をいじくり回す人が多いとも感じます。
Dr. 会社員は以前、マスコミでニュース記事を書いていました。
この頃、校正担当の方にかなりお世話になりました。
そのため、無意味な書き直しや悪意があるとしか思えないようなネガティブなフィードバックと、まともなフィードバックの違いは、良く分かります。
目次
悪意を感じるなら、反論して良い
翻訳チェッカー全員が改悪常習犯や無意味に訳文をいじくり回す人ではない、という前提で話を進めます。
Dr. 会社員は、日本語から英語よりも、英語から日本語への翻訳で、ネガティブなフィードバックをチェッカーから頻繁に受け取ります。
* 日本語から英語への翻訳でも、無意味かつ悪意のあるフィードバックを送ってくるチェッカーは残念ながらいます。
プロジェクトマネージャー(PM)が日本語を解さない場合、フィードバックの質を判断できません。
そのため、PMは意味不明なフィードバックでもそのまま翻訳者に転送します。
意味不明なフィードバックは、反論すればほぼ100%の確率で取り下げになります。
ですので、悪意があるとしか思えないようなフィードバックをもらった場合、Dr. 会社員はできるだけ反論しています。
Dr. 会社員は時間を無駄にすることが本当に嫌なので、時間の無駄に繋がるようなフィードバックには、かなり厳しいコメントを返します。
いじくり回すと仕事した気になるのか
Dr. 会社員は正直、英語から日本語への翻訳では他の言語ペアや逆方向(日→英)と比較して、未熟なチェッカーが多いと思っています。
また、日本人特有のメンタリティーなのか、訳文を無意味にいじくり回すことでチェッカーとしての達成感を感じている人も多い様に感じます。
根性論が蔓延る組織で、一番乗り出勤がエライ、深夜まで残業がエライ、とされる感覚と同じなのでしょうか。
確かに、訳文をいじくり回すのには時間がかかります。
時間をかければかけるほど、「仕事したぜ」という気になるのかもしれません。
無駄にいじくり回して、結局改悪
最初からまともに書かれている訳文を無意味にいじくり回すと、ほぼ確実に訳文を台無しにする結果となります。
Dr. 会社員が過去もらったネガティブなフィードバックには、訳文が無駄にいじくり回された結果、助詞の使い方や句読点の位置が変わっただけで意味が全く変わらないか、文章が読みにくくなっただけ、というものがかなりあります。
例をいくつか挙げます。
- 「Fire safety」を「防火対策」と訳した際に「意味が違う」とマークされ「火災予防」に書き換えるべきと指示された。
- 「同一の施設で改めて…」という表現が「直訳過ぎる」とエラー認定され「同一施設で改めて…」と直すように指示された。
- 「継続的な改善を目指す計画を…」という表現が「原文の意味を正しく理解していない」とエラー認定され「継続改善計画を…」と直すように指示された。
上記はDr. 会社員が実際に受け取ったフィードバックです(守秘義務があるので言葉を少し変えています)。
全て意味不明です。
「防火対策」も「火災予防」も、意味は同じです。
どちらを使うかは書く人の好みでしょう。
ただ、Dr. 会社員は「予防」という言葉は病気や怪我と繋げる方が自然な感じがするので、「火災予防」という表現は使用しません。
「同一の施設で改めて…」と「継続的な改善を目指す計画を…」は、チェッカーの手によって文章が漢字だらけになっただけです。
意味は変わりません。
どこがどうなって直訳調でなくなったのかも、分かりません。
日本語を書く際は、仮名と漢字のバランスを考える必要があります。
漢字と仮名のどちらかが占める割合が大きくなりすぎると文章が読みにくくなります。
まとめ
今回の投稿では、翻訳の仕事をしていると、悪意を感じるフィードバックをチェッカーから受け取ることがあるということに触れました。
また、悪意を感じるフィードバックを受け取った場合は毅然と対応すべき、とDr. 会社員が考えている理由も説明しました。
ただ、毅然と対応すると雖も、こういったフィードバックに対応するのは時間の無駄です。
そのため、Dr. 会社員は「内容が一般的」な「英語から日本語」の翻訳はできるだけ避けています。