翻訳者vsチェッカーの紛争

翻訳者vsチェッカーの紛争

Dr. 会社員は、だいぶ前に翻訳者とチェッカーの紛争に関与したことがあります。

これは、英語から日本語への翻訳(=和訳)でした。

チェッカーによる酷評に翻訳者が反論したものの、間に入っていたプロジェクトマネージャーが日本語を読めなかったため、第三者に意見を求めることになったのです。

本ブログで繰り返し述べている通り、Dr. 会社員はチェック系の仕事はできるだけ避けているのですが、この時も弾みでついうっかり引き受けてしまいしました。


直しても直さなくても、変わらん

直しても直さなくても、変わらん

内容を見たところ、指摘の多くは「直しても直さんでも、あまり変わらんよ」というものでした。

一方で、間違いを導入しているものがいくつかありました。

例を一つ上げます。

… the writing and editing of technical writing…

これが以下のように訳されていました。

テクニカル ライティングの執筆と編集

チェックした人はこの訳し方が気に入らなかったらしく、

「ライティングの執筆」

「腹痛が痛い」
と同じで変だ

と主張しました。

しかし、翻訳者はこの指摘に合点がいかなかったのです。


翻訳に問題はなかった

翻訳に問題はなかった

Dr. 会社員は、この訳に問題はないと考えました。

テクニカル ライティング」は物書きのジャンルであって、「小説」や「指南書」等に並ぶものだからです。

よって、「小説の執筆」や「指南書の執筆」と同じく、「テクニカルライティングの執筆」で、問題ないはずです。

そもそも、原文が「the writing and editing of technical writing」となっているので、翻訳者が高度にクリエイティブになる必要はありません。

「the writing and editing of scientific writing」が「サイエンス ライティングの執筆と編集」となるのと同じです。

上記の内容で、チェッカーが出した他の訳アリの指摘へのコメントと併せてプロジェクトマネージャーに返信したわけですが、その後連絡が途絶えたため*、この紛争の結末は不明です。

* もちろん、この作業の料金はちゃんと支払ってもらいました。


チェッカー側の問題

チェッカー側の問題

今回の一件でDr. 会社員が問題だと感じたのは、チェッカーが翻訳を酷評する一方で、変更のサジェスチョンを全く出していなかったことです。

「ライティングのライティング(執筆)」
がおかしいなら
どう書き換えるべきなのか?

この翻訳が「テクニカルライティングの執筆と編集を…」ではなく「ライティングの執筆を…」であったなら、妙だったのかもしれません。

しかし、実際は「technical writing」という類の文章を「執筆、編集する」ということなので、問題はありません。

あるべき訳を示さずに批判すると、自分の勘違いに気付きにくいのかもしれません。

また、翻訳をチェックする際は、上から目線のコメントは控えた方が良いでしょう。

自分が間違っていた場合、恥をかきます。

人間はしょっちゅう間違える生き物です。


まとめ

まとめ

今回の投稿では、翻訳者とチェッカーとの紛争に関与した一件を紹介しました。

本ブログで何度も述べている様に、チェック作業には非常に高度なスキルが必要です

チェック作業で翻訳のミスを特定するのは基本です。

しかし、実際に翻訳業に携わっている中でDr. 会社員が感じているのは、チェッカーが余計な(かつ誤っている)指摘を加えることで、プロジェクトに無駄な時間がかかるケースが多い、ということです。

この問題にどう対処すべきか、Dr. 会社員は分かりません。

誰かがいつか改善してくれるのを心待ちにしつつ、少しでも危険な香りのする案件は全力で避ける、という極めて受け身なスタンスを取り続けています。