稼げない翻訳者の法則

翻訳家を目指す動機が収入だと稼げないという謎

副業の翻訳で稼ぐ

というメッセージは各地で見聞きします。

翻訳は、英語が好きな日本人であれば一度は考える職業でしょう。

もちろん英語以外の言語の翻訳案件も多数ありますが、日本語の翻訳市場では、英語と日本語のペアの規模が間違いなく一番大きいでしょう。

翻訳者はフリーランスが多いためか、

副業にピッタリ

と思われる傾向があります。

さらに、

副業にピッタリ

英語の成績が良ければ、副業でならできる

というイメージも広まっているようです。

さて、得意な英語を生かして翻訳の副業で稼いでみよう、と思ったところで気になるのが、

翻訳の副業で一体どれだけ稼げるのか

でしょう。

しかし、翻訳の世界は甘くありません。

翻訳の仕事をやるかやらないかの基準が

儲かるかどうか

であるかぎり、まともな翻訳の案件を受注することはまず無理でしょう。

翻訳の世界には、稼げるかどうかを基準に参入する人ほど稼げない、という不思議な法則があります。


儲からないなら、やりたくない?

高収入でなかったらやらないのか

翻訳の仕事がしてみたくても収入が気になって躊躇している人は、翻訳の仕事に向いていないかもしれません。

翻訳者の中には、相当稼いでいる(年収 1,000 万円以上)の人も実際にいますが、この人たちの中で

稼げそうだから翻訳を始めた

という人はほとんどいないと思います。

適切な自己分析に基づいて翻訳を始めた結果、
売り上げが付いてきた

というのが一般的なパターンでしょう。

翻訳家に向いている性格については、過去の投稿で触れました。


スキマ時間の翻訳は、非効率を極める

翻訳業で収入を得るには、効率を考える必要があります。

翻訳の案件は、依頼者がいて初めて発生します。

よって、発生時期は予測不能です。

翻訳経験のない人でも登録できて、24 時間いつでも仕事のチャンスが巡ってくる(かもしれない)クラウドソーシングに登録したとしましょう。

この場合、案件の受注は早い者勝ちなので常に通知に目を光らせておかなければなりません。

自分が暇なときに仕事が降ってくるわけはありません。

そのため、本業がある人は本業に集中すべき時間に副業の通知が気になって、本業に集中できなくなります

本業がない人も、案件に秒速で反応するために常にスタンバイ状態である必要があります。

ここまでして案件をゲットしても、こういう媒体で受注できる案件の単価はほぼ、

業界最安値

です。

単価が原文 1 ワードにつき 5 円なら御の字、位だと思います。

さらに、納期は

業界最短

です。

受注したら即作業に取り掛からないと、納期に間に合いません。

納期に間に合わないと、評価が下がります。

これでは、自分の時間を売っているのと変わりませんし、決まった時間で働く時給ベースの方がもっといい仕事があると思います。

自分の得意とする専門分野がない状態で、激安の翻訳案件の争奪戦に身を投じることが、実際どれだけのリターンをもたらしてくれるのかは、一考に値する気がします。

Dr. 会社員はクラウドソーシングを否定するつもりはありませんが、翻訳家を志す人の間に危険な認識が広まっているとは感じています。


激安翻訳に学びの機会はない

翻訳者にとって学びの機会は重要です。

低単価早い者勝ち案件を受けていると、自分の翻訳者としての成長にも支障をきたします

自分の専門を問わず、何でも屋状態で案件を引き受けるため、原文を何となく理解できたとしても、読み手が理解できる日本語がアウトプットできない可能性が高くなります。

日本語だけで何かの記事を書くと想定してみましょう。

自分がまったく詳しくないトピックで記事(日本語)を書くことになった場合、そのトピックに特有の用語や言い回しを自然に使いこなせるでしょうか。

翻訳でも同じです。

何となく、分かるような、分からないような、という状態で翻訳をしていても、おかしな翻訳を生産することになりますし、仕事を通してスキルや知識を高めることもできません。

しかも、Dr. 会社員の経験上、激安早い者勝ち案件ほど、無意味で批判的なフィードバックが送られてくる可能性が高くなります。

無意味で批判的なフィードバックとは、以下の要素を備えたフィードバックです。

  • チェッカーの好み(客観性に欠ける)
  • あら捜し(憂さ晴らし?)

翻訳の経験が浅いと、こういうフィードバックに打ちのめされるかもしれません。しかし、翻訳を長年やっていると、実際に本当に意味不明なフィードバックをもらうことはありますし、どういったフィードバックが本当に参考になるのかは、経験とともに徐々に分かってきます。優良な取引先からは非生産的なフィードバックをもらうことは、ほぼありません。