翻訳では、高い年齢が有利になることも

翻訳では、高い年齢が有利になることも

Dr. 会社員の翻訳者としての経験に基づくと、翻訳では年齢がある程度高い人に競争力がある気がします。

もちろん高すぎると体力の問題が生じてくると思うので、70歳位をデビュー最高齢と想定した上での考えです。

*実際に70代で翻訳者に応募する人はいないと思うのですが、「いない」という証拠がないので、やや高めに見積もっています。

本ブログで繰り返し述べていることですが、翻訳の究極の目的は

訳文の読者が
理解できる文章を書く

ことです。

この目的を達成するには、原文が関係する分野の知識はもちろん必要ですが、

常識

もかなり重要となります。


常識は、人生経験を通して身に付く

常識は、人生経験を通して身に付く

私たちは常識の多くを、人生経験を通して身に付けます。

試験で出題される英文和訳や和文英訳では、常識が足りていなくても文法を一生懸命勉強すれば、点数がもらえる正答を書くことができます。

一方、翻訳の目的は、正答とされる訳文を取引先に提出することではありません。

確かに、一部の翻訳会社では、チェッカーが重箱の隅をつつくような採点をして、木を見て森を見ないフィードバックを翻訳者に送っています

ただ、こういうやり方は翻訳者とチェッカーの足の引っ張り合いの原因となるだけで、翻訳の質をチームとして向上させることはできません。

分かりやすい訳文では、原文のメッセージが、読者の文化や一般常識をさりげなく反映させた表現で上手く訳されています。

原文に書かれていない言葉を訳文に加えることは、翻訳教育では「addition」と呼ばれており、減点の対象となります。

しかし、実際の翻訳では、原文に書かれていなくても、読者の常識を想定して訳出するために一定の言葉を加える場合があります。

Dr. 会社員が目にしたことのある実例を挙げます。

企業のウェブサイトで「Why Company A?」という見出しがありました。

これが

なぜA社?

と訳されていました。

確かに正確なのですが、クライアントは多分怒るでしょう。

せめて、

A社が選ばれる理由

とする必要があります。

これが必要な「addition」です。

また、原文に書かれている言葉を訳文に入れないことは「omission」と呼ばれ、これも教育のセッティングでは減点対象です。

しかし、実際の翻訳では、敢えてomissionを実行することがあります。

翻訳学校で「omission」は悪いこと、と習ったためか、原文に書かれている一語一句を全て訳出して非常に読みにくい訳文を書く翻訳者を、Dr. 会社員はチェック作業を通して数多く目にしました。

効果的な「addition」や「omission」の匙加減は、人生経験が浅い人ほど難しいのでは、と感じます。

敬語を上手く使うことも、社会人としての経験が浅いうちは難しいと思います。

敬語は正しく使えていても、過剰に使うと慇懃無礼と受け止められるので、これも匙加減が難しいのです。


採用に、年齢制限があるのでは

採用に、年齢制限があるのでは

60代で翻訳者としてデビューしようと一念発起したとします。

近年まで、世界各地で年齢差別(ageism)が常識だったことを踏まえると、年齢が気になるのは当然だと思います。

Dr. 会社員自身がまだそこまで年を重ねていないので、ここから先は、自分が翻訳者として仕事をしてきた経験に基づく推測になります。

Dr. 会社員は、翻訳の本質的な部分と年齢には、あまり関係がないと思っています。

年齢がネックになりそうなのは、コンピューター リテラシーでしょうか。

近年、翻訳会社は各社で独自の翻訳マシンやメモリを開発しているので、フリーランスの翻訳者は新しいツールを自力ですぐにマスターしなくてはなりません

ひょっとしたら、年齢が高い人はコンピューター リテラシーが低い、と憶測すること自体がageismなのかもしれません。

日本の会社に登録する際に年齢がネックになっていると感じるなら、海外の会社に応募してみればよいと思います。

翻訳業界では、日本の会社と取引しようが海外の会社と取引しようが、仕事内容には大差ありません。

世界的な傾向では、職場で年齢にこだわる風習を改善しようという動きが高まっています。

わざわざ違法のリスクを冒してまでフリーランスの翻訳者に年齢制限を設けることに、メリットを全く見出していない会社はきっとあるはずです。


まとめ

まとめ

今回の投稿では、翻訳者になるには年齢がある程度高い方が有利だとDr. 会社員が思う理由を説明しました。

とはいえ、ただ高齢というだけでは競争力につながらないので、

年を重ねつつ身に付けた常識

勤勉な学習で身に付けた専門知識

継続的に磨いた言葉のセンス

が必要でしょう。

現実には、翻訳者としてデビューを果たす人の多くは30~40代ではないかと思います。

一方、翻訳以外の仕事で長年企業に勤めた後に翻訳の仕事をやってみようか、と考える人は割といます。

ただ、この流れで翻訳を考える人には、業界の知識や海外経験があっても、読み手に分かりやすい文章を書くというスキルが足りていないケースが多い様です。