腕の良い翻訳家を遠ざける悪癖

腕の良い翻訳家を遠ざける悪癖

翻訳業界には、大きく分けて4種類の翻訳者がいます。

  • 自信があり、腕も良い翻訳者
  • 自信はないが、実はそこそこ腕が良い翻訳者
  • 自信はあるが、実は腕が良くない翻訳者
  • 自信がなく、腕も良くない翻訳者

言うまでもなく、翻訳会社やソースクライアントが最も確保したいのは「自信があり、腕も良い翻訳者」でしょう。

多少譲歩して、「自信はないが、実はそこそこ腕が良い翻訳者」でも良いかもしれませんが、自信がない人と仕事をすると誤解や勘違いが生じ、面倒な展開になることがあります。

なお、日本人は「自信 (confidence)」と「傲慢 (arrogance)」をはき違えている人が多いのですが、この二つの言葉の意味は異なります。

また、過去の投稿で触れた通り、「謙虚 (modesty, humbleness)」と「自虐的 (playing the victim, self-victimisation)」も似て非なる表現です。

よって、ここで挙げている「自信がある翻訳者」と「傲慢な翻訳者」は同義ではありません。

実際、
「自信がある翻訳者」の多くは
「謙虚」です。

「自信がある翻訳者」を「傲慢」と表現する人の多くは、嫉妬に駆られているだけかもしれません。


腕の良い翻訳者は相手を選ぶ

腕の良い翻訳者は相手を選ぶ

腕の良い翻訳者は、仕事相手を慎重に選びます。

打診された案件を手あたり次第引き受けることはありません。

経験豊富な翻訳者は、嫌な予感のする案件は、まず引き受けません。

この「嫌な予感」は、翻訳者としての経験を積む中で徐々に研ぎ澄まされていくものです。

翻訳スキルも、仕事を選ぶ直感も、経験によって向上します。

「嫌な予感」とは具体的にどの様な展開を警告する心の声なのか?

Dr. 会社員の場合、「嫌な予感」のする案件とは基本的に、

訳文の良し悪しを問わず、
大量の手直しが
待っている案件

です。


無意味な書き換え、上から目線

無意味な書き換え、上から目線

Dr. 会社員が今まで実際に経験してきた、英語と日本語のペアの翻訳で発生した事例を踏まえると、日本語から英語よりも、英語から日本語の方が、腕の良い翻訳者を遠ざけるクライアントや他人の足を引っ張る同業者が多い気がします。

Dr. 会社員はこの投稿を書いている時点で人生の35%を日本の外で過ごしており、日本人コミュニティにも一切属していないので、日本人をある程度客観視できる自負があります。

客観的に見て、「他人の足を引っ張る」性質は、日本人に非常に強く見られます。

他人の足を引っ張る同業者については、今までの投稿で詳しく触れたので、今回は腕の良い翻訳者を遠ざけるクライアントに触れます。

腕の良い翻訳者を遠ざけるクライアントには、以下に挙げる特徴があります。

  • 訳文を好みでいじくり回した後、無償の確認作業を翻訳者に求める(= 手を入れたものの、結局心配)
  • コメントが上から目線

英語から日本語への翻訳では、大スケールで添削された訳文をクライアントから送り返されることがあります。

基本的に、他人が書いた文章に手を入れまくると、文全体の調子がおかしくなり、誤字が入る可能性が飛躍的に高まります。

この点は出版業界の常識ですが、お構いなしのクライアントが一定数存在します(多分、プロフェッショナルなライティングの常識を知らないのだとDr. 会社員は思っています)。

無駄にいじくり回した文章には、「近年弊社がが手掛けている…」とか、「この商品のの価格を…」といった誤字が新登場していることがよくあります。

翻訳者は、納品した訳文からほぼ全く意味が変わらない、ただparaphrasingされただけの「生まれ変わった訳文」を突き返され、生まれ変わった訳文が日本語として「大丈夫」かどうかを確認するよう指示されるわけです。

しかも、こういう無意味な書き換えを大量に導入するクライアントほど、漏れなく上から目線のコメントを付けて訳文を送り返してくれます。

上から目線のコメントには、「普通はこういう言い方はしない」といった「普通は…」が入っているのが特徴です。

この辺はもう、テクニカルな問題ではなく、人間性の問題です。

丁寧に訳した文章をいじくりまわされた挙句、新規に導入された誤字脱字、表記ゆれの確認まで無償で求められた場合、精神状態が正常な翻訳者なら、

次はないな

と思うわけです。

こうして、訳文を無駄にいじくり回したり、上から目線のコメントを発したりするクライアントから、「自信があり、腕も良い翻訳者」は逃げていきます。


まとめ

まとめ

今回の投稿では、Dr. 会社員が考える、腕の良い翻訳家を遠ざける悪癖を説明しました。

翻訳業で生計を立てていくには、翻訳のスキルを高めるだけでは不十分かもしれません。

クライアントの選定を誤ると、時間と労力を搾取されるからです。

翻訳者は、「仕事を振ってもらっている立場だから」と弱気にならず、健全な自信(自己肯定感)を高め、プロ意識を持って客を選別するくらいの気概を示した方が良いとDr. 会社員は思います。

謙虚さと自信のバランスが大事です。