トラドスは機械翻訳ではありません。
CAT(computer-assisted translation、直訳:コンピューターに支援された翻訳)ツールです。
CATは日本語では一般的に「翻訳支援」とされています。
SDL社のTrados Studio(日本では「トラドス」と呼ばれることが多いですね)は2020年現在、翻訳市場で一番大きなシェアを占めている翻訳支援ソフトです。
インターネット百科ウィキペディアにも説明が出ています。
トラドスはCATツールであって、機械翻訳のソフトウェアではありません。
CATツールでできることと、
機械翻訳でできることは
異なります。
目次
CATと機械翻訳の違い
翻訳支援(CAT)と機械翻訳(machine translation、MT)の基本的な違いは以下の通りです。
CATでは
機械のサポートを得て
人間が翻訳する
一方、
MTでは
機械が最初に翻訳し
人間が後で手直しする
CATツールと機械翻訳の違いはウィキペディア英日両方のページで説明されています。
ただ、日本語のページではCATとMTが分かりにくく定義されているので、英語のページを読んだ方がいいと思います。
どう分かりにくいのかを説明します。
日本語のページでは「computer-assisted translation tool」が「翻訳メモリツール」、「machine translation」が「翻訳ソフト」と同義で扱われているからです。
翻訳メモリツールはCATの概念の一つであって、CATには翻訳メモリ以外の翻訳支援に関する概念も含まれています。
CAT>翻訳メモリ
CAT≠翻訳メモリ
さらに、「機械翻訳」と「翻訳ソフト」は同義ではありません。
両者の違いを既に分かっている人なら、日本語ページの分かりにくい説明でも大丈夫だと思いますが、翻訳支援ツールと機械翻訳の違いを明確に理解しておきたい人は、ウィキペディアの英語ページを読むことをお勧めします。
トラドスを使ってできること
トラドスでできることは、以下の点を始めとする作業の効率化です。
- 繰り返しのフレーズを毎回一から訳さずに済む(翻訳メモリ)
- 専門用語を訳す際に毎回辞書を引かなくて済む(用語集)
- 文書内での用語の一貫性を保てる(コンコーダンス機能)
- 作業管理を可視化できる(プロジェクトマネジメント機能。これは翻訳者よりも翻訳コーディネーターに必要な機能です)
他にもマニアックな機能が満載ですが、主な機能は上述の通りです。
翻訳者にとってのメリット
トラドスを使うことで翻訳者が得られる最大のメリットは、繰り返し出てくる訳や訳語の一貫性を保てるということでしょう。
また、操作画面上で、原文が左側に、訳文が右側に表示され、一文ごとにセグメントで区切られるため、訳抜けのリスクを抑えられるということもメリットの一つでしょう。
参考用に、SDL社がYouTubeにアップしている動画のスクリーンショットを以下に載せておきます。
翻訳者にとってのデメリット
翻訳者にとっての最大のデメリットは、価格が高いことです。
日本マーケットでは値下げとなったようですが、それでも最も基本的なバージョンで10万円近くします。
Dr. 会社員は正直、年間の売上が200万円を超えたくらいから購入を考え始める、というスタンスで十分かと思います。
価格に次ぐデメリットは、慣れるまでは使いにくいことです。
iPhoneの特徴に「intuitive」があります。つまり、説明書なしで直観的に操作できる、ということなのですが、トラドスをはじめ、CATツール全体でこの要素が欠けている気がします。
使い始めるとだんだん分かってくるのですが、最初が大変です。
もう一つデメリットを挙げるとすれば、要らない機能も満載、ということでしょうか。
CATツールに関する講座の多くは、翻訳者が実務で知らなくても良い概念(どちらかというとCATツールを開発する人が知っておくべき概念)の説明にウェイトが置かれる傾向があるため、翻訳者の実務に直結する知識を提供してくれるものが少ない気がします。
トラドスについては過去の投稿で色々と触れているので、関心がある方は是非ご覧になってください。