AIを活用する機械翻訳は日々発展しており、翻訳や通訳の仕事がなくなるのでは、という不安の声が、翻訳者や通訳者になることを考えている人達の間で上がっています。
Deep Lなど高性能なツールですら無料で使えてしまうので、個人で使用する文書やウェブサイトの翻訳には有料の翻訳サービスは不要、という見方もあります。
ただ、翻訳の仕事が全てなくなるというのは極論です。
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翻訳の仕事内容は多岐にわたる
翻訳の仕事内容は多岐にわたります。
分野、文書形式、クライアントの業種等、様々です。
確かに、多様な翻訳の仕事の中には、機械翻訳が発達することで人の手がほとんど要らなくなるものがあるかな、とは思います。
例としては、レートが激安のポストエディット案件が挙げられます。
翻訳(スクール)業界には、特許翻訳だとか医療翻訳、法律翻訳という分け方もありますが、これは翻訳を依頼する側の視点に立った分け方ではなく、どちらかというと、翻訳家になりたい人がスクールに通ったり通信教育を受けたりする際の区分けです。
もちろん、翻訳者として自分の専門分野を持つことは大事です。
ただ、実際の現場では、「この案件は医療翻訳者用」、「こちらは特許翻訳者用」、という感じで案件が振られているわけではありません。
法律翻訳を例に挙げます。
製薬会社のpharmacovigilance(医薬品の安全性に関するプロセス)の文書には、法令遵守に関する内容が記載されている場合があります。
これを「法律翻訳者です」と名乗る翻訳者であれば誰にでも任せられる、ということにはなりません。
同様に、「医療翻訳者です」と名乗る翻訳者であれば、誰にでも任せられる、というわけでもありません。
複雑な翻訳ほど、なくならない
実際に受ける依頼の内容から考えると、人間が機械のアシスタントとして激安レートで奉仕することになりそうなのは、以下の様な文書の翻訳です。
- 内容が単純
- 繰り返しの表現が多い
- 言葉遣いが平易
- 原文のテキストが機械に取り込みやすい
一般消費者向け製品のウェブサイトやカタログ等が該当するでしょうか。
一方、今後少なくとも50年くらいは人間の翻訳者の需要がなくならないだろう、と思われるのは、以下の様な文書の翻訳です。
- 内容が専門的
- 訳出先の言語で自然な表記が求められる
- 文書の機密性が高い
学術論文や重要な書簡、法的な文書、書籍等が該当するかと思います。
まとめ
今回の投稿では、翻訳の仕事が丸々なくなる、というのは極論だ、ということを前提に、なくなりそうなものと存続しそうなものを説明しました。
基本的に、内容が高度で複雑になればなるほど、機械に一次翻訳を任せることで大惨事になる可能性が高まるので、こういった文書は人間の手による翻訳がまだまだ必要かと思います。
したがって、翻訳で生計を立てたいなら、専門分野の知識や経験を(語学力以上に)身に着けることが重要です。