「Deep L」を超えられない翻訳者の末路

【翻訳が生業】「Deep L」を超えられない翻訳者は使い捨て部隊入り

最近世界中で話題になっている優良翻訳サイト「Deep L」。

機械翻訳と翻訳支援ツールの違いを説明した過去の投稿でも触れました。

機械翻訳は日々発達しており、大手翻訳会社は独自に翻訳マシンを開発しているようです。

インターネットの登場で日常的に生産される情報の量が天文学的に増加しているため、それに応じて翻訳の需要も増えているのは自然な流れでしょう。

したがって、翻訳者の需要も全体としては増えてはいると思います。

ただここで注目すべきは、翻訳者の需要は「量的」に増えているだけで「質的」的に増加しているわけではない、ということです。従来型の翻訳者新型の翻訳者で需要構造は二極化しています。


大量生産型翻訳市場の拡大

大量生産型翻訳市場の拡大

数年前に比べれば単純な内容の翻訳の需要は大幅に増えたと思います。

クラウドソーシングでは頻繁に翻訳の依頼が発生しています。これが上述した新型の翻訳者の需要です。

クラウドソーシングでは、翻訳を依頼する側が簡単かつ激安で翻訳を依頼できます。依頼が入ると、登録されている何千人(ひょっとしたら何万人かも)もの翻訳者に一斉に通知が送られ、秒速で反応した一番乗りの翻訳者がその激安案件をゲットできる仕組みです。

とにかく安い、早い。特に専門的な知識を必要とせず、翻訳後に自分である程度修正を加えればいいや、というレベルの翻訳であれば、高額な翻訳会社を利用するより確かに効率的だと思います。

クラウドソーシング以外では、専門性が低めの大型案件(単純な内容のウェブサイトなど、いわゆるローカライズ*と呼ばれるタイプの案件)を大量に受注している会社で、自社の翻訳マシンで一次翻訳した原稿を、人間の翻訳者に編集させるというポストエディット案件を大量に発注している所があります。

* 日本の翻訳業界で頻繁に登場する「ローカライズ」や「ローカライゼーション」という言葉は、英語の”localise”や”localisation”と少し異なるニュアンスで使用されています。

このポストエディット案件を頻繁に取り扱う会社も、クラウドソーシングに劣らず多数の翻訳者をプールしていることがほとんどです。単価も激安です。一時間で 1000 語はこなさないとまともな収入になりません

機械でほとんど翻訳されているんだから
後は簡単でしょ

というのが会社側の言い分のようです。

確かに、原文に一切目もくれず、訳文の日本語を直すだけだったら簡単だと思いますし、2 円/語くらいのレートのポストエディット案件で生計を立てるにはそうするしかないと思います。


専門性の高い翻訳市場は比較的安定

専門性の高い翻訳市場は比較的安定

一方で、高度な専門知識を有する翻訳の需要は、もちろん増えてはいますが、難易度が低い量産型の情報の翻訳に比べると増加率が低い気がします。

統計データが手元にないので正確な状況は分かりませんが、あちこちで

翻訳単価が低い

とか

翻訳で生計を立てるのは無理

といったコメントを目にするので、大量生産型の情報を翻訳する人が増えているのだと思います。

一方、副業翻訳で簡単に稼げるようなメッセージがネットで出回っていますが、実際は専門性の高い翻訳に専業で携わっていても、

年間売上 1,000 万超え楽勝

みたいなことにはなりません。

そんなに簡単に売上が出せるなら、翻訳者は皆40代でリタイアです。

翻訳者が高収入を得るには、以下のすべてを全力で高め続ける必要があり、生半可な気持ちでは無理です。

専門知識
作業効率
案件の受注頻度

専門性の高い翻訳を引き受けるようになると、ダッシュボードに突如掲載された案件に秒速で反応しないと仕事が取れない、というような事態はほぼ確実になくなります。

もちろん、早い者勝ちでないとしても、受信から 1 時間以内には返信するのがプロの翻訳者としてのマナーだと Dr. 会社員は思っています。

別の投稿でも触れましたが、専門性の高い翻訳者はかなり高学歴か、特定の業界で深い経験を積んでいます。


量産型翻訳者は「使い捨て」

量産型翻訳者は「使い捨て」

日本人の多くは、学生時代に英語をひたすら勉強します。

日本の英語教育はもっぱら「文法訳読法」を採用しているので、日本人のほとんどは構文を分析しながら英語を読む癖がついています。

自分で英語を読むだけであれば文法訳読法で十分なのですが、文法訳読法に頼った翻訳には限界があります。文法訳読法で太刀打ちできるのは、本当に一般的なごく短い文章で、かつ、原文が正確な文法で書かれている場合に限られるといっても過言ではないでしょう。

しかも、文法訳読法で英語を読んでいると解読に時間がかかりすぎて時間あたりの売上が限りなく低くなります。

日本語と英語の相性を考えると、文法訳読法は初期の英語学習には便利な方法ではありますし、言語学を極めるつもりの人には必須でしょう。ただ、英語でのコミュニケーション能力を養うための手法としては、この方法には色々と問題があります。

文法訳読法を使って解く英語のテストで高得点が取れる日本人はたくさんいますし、激安価格でもいいから翻訳の仕事をしたいという人が続々と翻訳業界に参入しています。

よって、以下の条件を満たす日本人が激安系翻訳サービスに日々登録されているわけです。

  • 専門知識がない
  • 英語が得意
  • 翻訳が副業にピッタリだと信じている

一日丸ごと費やして報酬 500 円みたいな案件でも

私、やります。

という人は後を絶ちません。

こういう人が結局嫌になって

もうやめます。

となっても、代わりは何千人もいるので、激安翻訳者を使っている側には何の影響もありません。

ではこの「使い捨て部隊」を卒業するにはどうするか。

この問題は過去の投稿でも論じましたし、今後も時々書いていくつもりです。


まとめ

まとめ

本投稿では、最近の翻訳市場に見られる傾向を考察しました。

  • 翻訳業界は二極化が進行
  • 大量生産型の翻訳市場の拡大
  • 使い捨て翻訳者の搾取構造

Deep L を超える翻訳を効率的に生産できない翻訳者は今後、機械に次ぐ二次的な要員として業界で位置づけられることになる気がします。