自己満足の翻訳レビューは見苦しい

自己満足の翻訳レビューは見苦しい

「日本人は自分が不利益を被ってでも他人の邪魔をしたがる傾向がある」、というなかなかセンセーショナルな研究結果が大阪大学の研究グループから発表されています。

Dr. 会社員はこの傾向を翻訳業界の日本人コミュニティで非常に強く感じます。

過去の投稿でも触れたとおり、Dr. 会社員ができるだけ英→日より日→英の案件を優先して受けるようにしている理由の一つが、「論理的な根拠がなく因縁をつけるだけのフィードバックに反論するのが面倒だし時間の無駄」ということです。

* もう一つの理由は、単純に日本語→英語の方がペイが良いということです。

英語→日本語の翻訳をレビューできるのは日本語のネイティブスピーカーにほぼ限られます。

よって、自分が納品した英語の和訳に対するフィードバックは毎回日本人からもらいます。

Dr. 会社員は、英→日翻訳で自分が今までもらったフィードバックの半分以上に理不尽な指摘が入っていたと記憶しています。

日本語から英語への翻訳で悪意を感じるフィードバックをもらうことは滅多にない(全くない、ではありません)ので、因縁をつけるようなフィードバックを送って同業者を蹴落とすという行為は、日本人の翻訳者に特徴的な傾向だと思います。

Dr. 会社員は日本語と英語しか使えないので他の言語ペアについては分かりません。

よって、ひょっとしたら日本人のような行動をとる人が多い言語グループが他にもあるかもしれません。

しかし、リアルタイムで同業者を攻撃している人は、攻撃に夢中になって自分のみっともなさに気付いていないのでしょう。

芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を推薦図書として紹介してあげたいくらいです。


同業者への攻撃は墓穴掘り

同業者への攻撃は墓穴掘り

同業者を蹴落とすことで自分のプライドを辛うじて維持している翻訳者は、同業者を攻撃するたびに墓穴を掘っていることに気付いていないのでしょう。

「フィードバックを送ったら、翻訳者が逆切れした」と、あたかも翻訳者が無能であるかのように表現しているlinguistをたまに見かけますが、自意識過剰も甚だしいことです。

この人は他人の翻訳をレビューできる立場にあるわけですから、それなりの業績を収めてきたlinguistなのかもしれません。

しかし、こういう方ほど、平家物語でも読んで自省の時間を設けていただきたいものです。

確かに、翻訳者の中には少々癖がある、というか「取り扱い注意」という感じの人がいるにはいます。

少々話がずれますが、こういう「handle with care」な翻訳者が取引先のランゲージリードみたいな立場に君臨していると、面倒な事態に巻き込まれることがあるかもしれません。

本題に戻ります。

Dr. 会社員は自分の経験から、余程エラそうなフィードバックや明らかに相手を蹴落とす意図が込められた悪意のあるフィードバックをもらったのでない限り、まともな翻訳者がアグレッシブに反論することはないと思っています。

そもそも、自分の書いた文章が他人の好みで書き換えられるのを喜んで受け入れる人は、まずいません。

その気持ちを汲んだうえで中立的なフィードバックを送ることができない翻訳者は三流です。

理不尽なフィードバックに翻訳者が反論した場合、間に入っている翻訳会社がまともな会社であれば、レビュアーと翻訳者それぞれの言い分を分析してくれます。

確かに、分析を担当するインハウスまたはサードパーティの翻訳者が(言葉は悪いのですが)ヘッポコで、ここから更に焦燥感を煽られる展開になる可能性もゼロではありません。

しかし、大抵の場合は悪意のあるレビュアーが「要注意人物」と取引先(翻訳会社)からマークされて終了です。


レビューは成長の機会

レビューは成長の機会

翻訳者として成長したいなら、レビューの機会を健全に活かしましょう。

ゼロサムゲームに持って行くのはなく、他の翻訳者が使っている上手な言い回しや避けるべき表現を学ぶ方が生産的です。

もちろん、翻訳者が本当に間違えている部分は正確に指摘すべきですが、自分の好みを押し付けるのは非生産的だし、disrespectfulです。

Dr. 会社員は、自分が手掛けた観光ガイドの和訳のフィードバックで、「…博物館Aに行ってみましょう。」や「…レストランBに立ち寄ってみましょう。」というスタイルの文が、「…では博物館A。」や「…ならレストランB。」という体言止めにことごとく置き換えられた挙句、元の翻訳がエラーだとマークされていたのを目にしたことがあります。

謎の体言止め化の前後で情報の正誤は何も変わっていないにもかかわらず、です。

個人的な好みで気持ち悪い文章に書き換えられた挙句、誤訳だという冤罪まで擦り付けられたのですから、たまったものではありません。

幸い、この案件の発注元だった翻訳会社は理不尽なフィードバックへの反論の機会をくれる取引先だったので、上記の謎の体言止め化をはじめとする悪意のあるフィードバックに徹底的に反論して冤罪を晴らし、事なきを得ました。

ただ、事なきを得たといえども、反論の文章を考える時間や、本当に自分の翻訳が間違っていないかを見直す時間など、貴重な時間を無駄にした一件でした。翻訳会社にとっても時間の無駄だったと思います。

自分の承認欲求を満たすために周囲の人を巻き込むのは止めましょう。時間泥棒と周囲から認識されるだけでなく、プロとしての評価が地に落ちます。


まとめ

まとめ

今回の投稿では、自己満足の翻訳レビューは見苦しいとDr. 会社員が常々感じている思いの丈を吐き出しました。

運悪く(というほどの低頻度ではありませんが)、機嫌の悪いレビュアーから翻訳業界追放のターゲットにされた場合は、焦らず慌てず、冷静に対応しましょう。

大抵の場合は何とかなります。

何とかならない環境しか提供できない取引先の場合は、無理に説得を試みない方が得策です。

その方が長期的なダメージを被らずに済みます。