英語力やスキマ時間を活用して翻訳で「稼ぐ」、という発想がネット界で拡散しています。
この発想は、希望と現実がごっちゃになっている感じがします。
つまり、時間とお金を費やして学習した英語力を「宝の持ち腐れ」にしたくない、という希望が独り歩きしている、ということです。
しかし現実の世界で翻訳業に携わっている人のほとんどは、煌びやかな生活とは程遠い、地味な毎日を送っています。
現代はモノだけでなく、居住空間や教育等、体験までもが大量消費の社会なので、「ガッツリ稼ぎたい」と思うのは自然なことでしょう。
当然のことですが、たくさん稼げば、たくさん消費できます。
ただ、大金を稼ぎ、大量に消費する、という生き方は、本物の翻訳家の生き方とは相容れません。
目次
翻訳家に大金は要らない
翻訳家ライフを送る上で、大金は必要ありません。
弁護士や事業戦略コンサルタントの様に、クライアントと定期的に顔を合わせる必要がないため、翻訳家は見た目にお金をかける必要がありません。
メディア露出の多い翻訳家はいますが、メディアに露出している時間の彼らは、翻訳家ではなく、英語(語学)ネタのタレント・評論家・コメンテーターです。
ショービジネスでは見た目に大金をかけるのが普通です。
また、こういった形式のショービジネスは、英語にコンプレックスと言えるまでの激しい情熱を注いでいる日本でしか成り立ちません。
Dr. 会社員の住んでいる国で、テレビ番組にゲスト出演している翻訳家や通訳者は見たことがありません。
英語教育にさほど熱の入っていない国では、翻訳者や通訳者というのはかなり「慎ましい、質素な職業」と認識されています。
Dr. 会社員は会社員の頃に着ていたスーツや靴は全て処分しました。
今は、その辺の量販店で買える普段着しか着ていません。
ただ、ビジネスで人と会うことは今でもごく稀にあるので、その時のためのビジネスカジュアルの装いは準備しています。
通勤もなく、終業後の会議や打ち合わせ(=飲み会)もないので、交通費や交際費もかかりません。
誰かに見られることを気にしなくていいので、高級車も持っていません。
翻訳の仕事には非常に高い集中力が求められるので、社交活動が活発すぎると脳が常に興奮状態となり、仕事ができません。
また、他人の目を気にする環境にあると、気持ちが落ち着かず、これも仕事の妨げとなります。
できるだけひっそりと過ごすことが、翻訳の仕事に没頭するコツでしょう。
お金に執着すると、良い仕事ができない
どんな職業でも、費やした努力に見合った報酬を期待するのは自然なことです。
しかし、本ブログで繰り返し説明している様に、プロの翻訳家として良い取引先と仕事をして、まともな報酬を受け取るには、まずは自分の翻訳家としての資質やプロとしての心構えを身に着ける必要があります。
商品にならないかもしれないような訳文を納品して、努力したのだから報酬をもらいたい、というのは無茶な発想です。
収入は、後からついてきます。
実際、スキルの高い翻訳者は、それなりの収入を得ています。
ただ、印税が入ってくる本の著者や、一回レコーディングした曲から継続的に売上が発生するミュージシャンとは異なり、翻訳者の場合は実際に作業した分がその場限りの収入として入ってくるのみです。
よって、翻訳者が自身の手を動かす翻訳作業のみで稼げる上限は、年収1,500万~2,000万円でしょう。
文芸やエンターテインメント字幕の翻訳者であれば、印税等の収入も狙えるのかもしれませんが、Dr. 会社員は文芸作品の翻訳は経験がなく、字幕は業務用ソフトウェアの使用説明ビデオの翻訳しか手掛けたことがないので、よく分かりません。
また、本物の翻訳力が付いてくると、まともなクライアント(案件)と理不尽なクライアント(案件)が見分けられるようになってきます。
このレベルになると、困ったクライアントとは徐々に距離を置けるので、自分が気持ちよく取引できる相手が残ります。
まとめ
今回の投稿では、翻訳とは、そんなに儲けなくてもいい職業だ、ということを説明しました。
Dr. 会社員は、英語(語学)力を活かして「稼ぎたい」人にとって、翻訳は最適な選択肢ではないと思っています。
プロの翻訳家の生き方と、お金をたくさん使う生き方には、共通点が少ないのです。