翻訳家になるには?最初に考えておくべきこと

翻訳家になるには?最初に考えておくべきこと

翻訳家になりたいと考えている人は基本的に、語学が好きで他国の文化に関心があると思います。

ただ「語学力」と「他国の文化への関心」は、翻訳家の仕事に関心を持つほぼ全員が有しているため、これだけでは翻訳家になるための差別化が全くできません。

ここでいう「翻訳家」とは、クライアントから案件を受注して支払いを受けられる翻訳家、という意味です。

ミュージシャンと同じで、別に稼いでなくても自分が翻訳家だと思えば翻訳家だと名乗ることは可能です。

今回の投稿では、収入を得られる翻訳家になりたいのであれば、一考に値すると思われるポイントを紹介します。


考えておくべきこと

言語ペアの決定

考えておくべきこと

どの言語ペアで翻訳がしたいのかは、翻訳家になりたいと思う時点でほとんどの人が既に決定しているとは思います。

ここからさらに掘り下げて、どちらの方向に集中したいのかも決めておくと、取引先にアプローチする際に役立ちます。

つまり、英語から日本語への翻訳をメインにするのか、それとも日本語から英語への翻訳をメインにするのか、をある程度決めておく、ということです。

翻訳業界では基本的に、翻訳先の言語のネイティブに優先して案件が回されます。

この傾向は特に、海外で強い気がします。

しかし、一部の分野では逆方向の人材が求められていることもあります。

翻訳元の文書が一般的であるほど、そしてネイティブっぽい(idiomaticな)表現が求められるほど、訳出先の言語がネイティブの人が有利です。

一方、翻訳元の文書の専門性が高いと、原文が書かれている言語が母語の翻訳者にもチャンスが回ってきます。なぜなら、原文の内容が高度だと、非ネイティブは正確に解釈できない場合があるからです。

つまり、内容が非常に複雑な日本語の文書の英訳は、英語ネイティブよりも日本語ネイティブの方が正確に訳せる可能性が高まる傾向がある、ということです。

ビジネスで使うプレゼンテーションの資料などは、業界用語が省略されて使われていたり、日本人が勝手に作った英語っぽい表現が使われていたりするため、英語ネイティブには理解しにくいことがあります。

和製英語を英訳する場合など、英語ネイティブは確実に苦戦します。

日本人が英語と日本語のペアで翻訳の仕事を探す場合は、英日翻訳が群を抜いて熾烈な競争になります。さらに、フリーランスは労働基準法で守られていないため、言い方は悪いですが、英日翻訳をやりたいという人は掃いて捨てるほどいるということで、得意な専門分野がない翻訳者は労働搾取の対象となるリスクがあります。

市場分析

市場分析

フリーランスの翻訳家を目指す場合、稼げる翻訳家になりたいのであれば市場分析を強くお勧めします。

翻訳業界では、専門分野を持っている翻訳者が圧倒的に有利です。

量(語数・字数)ベースで案件が多い分野は

アプリ・ソフトウェア
化学
ゲーム
医療
特許
法律

などでしょうか。ただ、量ベースで大きなシェアを占めている分野で、高い単価を常にオファーしてもらえる、というわけではありません

つまり、

仕事の量と単価は別

ということです。

専門性の高いニッチな分野の案件でも、取引先次第ではかなり低いレートでオファーされます。


市場分析に基づく専門分野の決定

市場分析に基づいて自分の専門を決める

英語以外得意なものは何もないという方は、教育を専門とするのもありです。

教育分野の文書は専門性が低く、他の分野を専門とする翻訳者でも問題なくできるものが多いのですが、業界特有の表現になれておくと、案件を受注しやすくなります。

英語圏の国では留学生をターゲットにした英語教育ビジネスがかなり盛んです。

2020年現在、コロナ禍で今後何とも言えない状況にはなっていますが、ひょっとしたら今後オンライン教育プラットフォームが大きく進化するかもしれないので、翻訳の需要が増えるかもしれません。

教育関係の案件では、コース概要やビザなどを含めた渡航準備の説明、滞在中の健康管理、現地情報などのパンフレットやウェブサイトを訳すことが多くなります。

英訳ができそうであれば、英語スピーカーに向けた日本語学習用テキストの英訳なども可能ですが、需要が少なく、これをメインにフリーランスで生計を立てるのは困難です。

一方、収入ありきで専門を決めるのであれば

特許
法律
医療

が今のところ花形でしょうか。

定期的に案件が発生する競争相手が(他の分野と比較すれば)少ない、という点で翻訳家の間でも上記を専門にしたいと考えている人は多くいます。

また、高めの単価をオファーしてくれる会社が取り扱っている可能性が高い分野です。

工学系も単価は高めなのですが、上記の分野と比較すると、文章というよりも用語や句が多用されている文書が多く(設計図など)、翻訳そのものの作業以上に、文書のフォーマッティングに時間を取られ、時間当たりの売上がやや落ちる気がします。

あくまでもDr. 会社員の自分の経験に基づく感想ですが。

また、マニュアルなど繰り返しの表現が多い案件では、繰り返しの分が割引(もしくはゼロ)で翻訳料が支払われ、腑に落ちない気分になったことがあります。

ただ、収入ありきで専門を決めると、結構早い段階で飽きて勉強が続かなくなる可能性があります。

よって、専門を決める際は、自分が最も関心を持っていて勉強を続けられる分野を選ぶことをお勧めします。


ねらい目の分野を上記に挙げましたが、翻訳業界では特許、法律、医療と、それぞれの分野がかなり大雑把に分けられています。

「医療翻訳」と一言で表現しても、一体医療の何を翻訳するのか分かりません。

手術記録なのかもしれませんし、臨床試験で患者用に使用する平易な説明文かもしれません。医学論文もありますし、感染症や遺伝病の研究で使う機器の説明書の翻訳もあります。

「特許翻訳」も「法律翻訳」も同じです。特許には食品、自動車、機械など様々な分野の特許があります。そして法律も、商法、家族法、刑法、国際法など、法律の種類だけでなく、契約書、裁判用の資料、政府のウェブサイトなど文書の性質も多岐にわたります。

上記のカテゴリーをもう少し絞って自分の専門を決めると、翻訳家になるための勉強に何が必要なのか、どういう取引先にアプローチすべきか、という点が見えてきますし、スキルアップもしやすくなります。

本ブログで繰り返し言っていますが、何でも屋の翻訳者が、一番きつくて一番儲かりません