【洋書多読の効果とコツ】英語圏PhDの実践

洋書多読の効果とコツ

洋書の多読を実践して英語力を高めたい、と考えている人はたくさんいます。

今日の投稿では、英語圏の大学院で修士号と博士号を取り、大学教員や国際ニュース記者を経て、現在フリーランスの翻訳家として生計を立てているDr. 会社員が、洋書を多読する効果と多読のコツを説明します。

まずは結論から。

洋書の多読で
英語力は

確実に向上します

Dr. 会社員は洋書を多読したことで、英語圏の大学でPhDを取り、国際経済ジャーナリストの仕事をゲットし、今では翻訳家として独立できました。

働きながらの勉強だったので、もちろん楽な道のりではありません。


Dr. 会社員は、日本で生まれ、日本語が母国語で、学士号を取るまではほぼ日本語だけを使って生きてきました。学士号は英語教育が強いことで知られる東京の大学で取りましたが、当時は日本に住んでいたので基本的に英語の使用は限られていたと思います。

実際に「多読」と言えるほど英語を読むようになった(読まなくてはならない状況になった)のは、移住しようと思って日本を出てからです。

世の中に出回っている情報の大半は英語で発信されていることもあり、英語で情報収集できることは様々な面で大きなアドバンテージとなることは間違いないでしょう。

2020年7月時点のインターネットで使用されている言語ランキングでは、言語全体の約60%を英語が占めています。英語がダントツ一位ですね。

2020年7月時点のインターネットで使用されている言語ランキング
Source: Wikipedia

日本語が8位なのは驚きかもしれませんが、これは日本語が世界中で読まれているから順位が高いのではないと思います。日本人が日本語しか読めないため、日本語の情報に対する需要が高くなり、それに応じて必然的に日本語での発信量が増えているだけ、と推察します。

人口が減少し始めたとはいえ、日本にはまだ、日本語だけで生活している人が一億人以上存在しているわけですからね。

一方、日本以外の非英語圏にはバイリンガルが多く、彼らは英語で情報収集できるので、母国語の情報だけに頼っていません。インドやフィリピン、欧州各国の状況を考えてみればイメージがつかめると思います。


多読実践中の悩み

多読実践中の悩み

本投稿ではまず、多読を実践している人の多くが抱えている悩みから考えていきます。

よくある悩み:多読しているけれど、なかなか読むスピードが上がらない

この問題への解決法を以下のステップで段階的に説明していきます。

  1. 読んでいる絶対量を数字で見直す
  2. 読むジャンルを絞る
  3. 完読にこだわらない

絶対量を数字で見直す

解決へのステップ1:読んでいる絶対量を数字で見直す

洋書の多読は、英語の読解力の向上につながります。これは自分自身の経験から断言できます。

「多読」で英語力を向上させるにはとにかく「絶対量」が必要です。

その次に「」が重要となります。

では多読で英語力を向上させるのに必要な読書量とはどのくらいを指すのか?

具体的に、Dr. 会社員が今までにどれだけ洋書(学術論文やニュース記事など、英語の媒体全てを含む)を読んできて、実際どうなったかを説明します。

Dr. 会社員は、英語圏の大学院で修士課程にいた1年半の間に、学術論文と学術書を併せて恐らく200本(冊)くらい読みました。

これくらい読んでも、スイスイ読めるようになった!という実感はありませんでした。

現地の学生に比べれば読むスピードはずっと遅く、理解も浅かったと思います。

博士課程の4年間では、英語の学術論文と学術書を800~1000本(冊)ほど読んだと思います。厳密に数えてはいませんが、博論の参考文献一覧や論文を書いていた時のリーディングリストを基に推測した量です。これらの出版物に加えて、ニューヨークタイムズ・マガジンなど、オンラインのニュース雑誌なども読みました。

Source: The New York Times Magazine

* 上記の本や論文は全て完読したわけではありません。完読にこだわらなくていい理由は後述します。

博士課程では特に1年目で物凄い量の本を読みます。読まないと研究計画書が作れないので、PhDの学生は誰でも、博士課程に残るために必死で読みます。

Dr.会社員がある程度スイスイ読めるようになってきた、と感じたのは博士課程の2年目が終わるころでした。

大体このくらい読めば、日本人でもそれなりのスピードで英語が読めるようになってくるようです。

国際ニュースの記者として働いていた間は、記事書きや取材と並行して、現地のニュースを英語で一日中読んでいました。

現在は翻訳業で日本語から英語、英語から日本語への翻訳をほぼ毎日やっているので、専門性の高い文章を英語か日本語で日常的に読んでいます。

その一方で、元々自分の趣味だったこともあり、仕事とは直接関係ないジャンルの読書も続けています。

ここまでを経て、今では

ジャンルによっては
日本語より
英語で書かれた内容の方が
理解しやすい

という状況です。

上記以上に洋書を読んでもまだ読めない、という人がいたらむしろ、本ブログの今後のネタ様にその経験を共有していただきたいので、「お問い合わせフォーム」から連絡願います。


多読のジャンルを絞る

解決へのステップ2:読むジャンルを絞る

Dr. 会社員は多読で英語力を向上させましたが、元々英語力を向上させることを目的として多読をしていたわけではなかったので、英語での読解力が向上するまでにかなり時間がかかりました。

今振り返ってみて分かるのは、洋書の多読で英語力を向上させたいなら、

自分が既に
知識を持っている
分野の本を読むのが
一番効率的

ということです。

洋書の多読で英語力を向上させたいなら、日本語で既に持っている知識をさらに深められる洋書を選びましょう。

これは自身が経験した結果から振り返って思うことですが、ある分野に詳しくなればなるほど、その分野で初めて読む本が理解しやすくなります。

同じようなことが書いてある本でも、まったく同じ表現が使われていることはありません。

つまり、同じ事象を多方面から英語で理解しようとする中で様々な表現に出会い、その表現が自分のボキャブラリーとして積み重なっていきます。

知らない分野の洋書を読むと、読むスピードが激減しますし、理解できる内容も限られ、読むことが苦痛になります。

母国語で知らない内容を外国語で理解できるようになるには、その外国語を母国語と同程度に使いこなせるようになるまでは無理、と考えるのが無難でしょう。

自分の知っている分野の洋書を多読して、読むスピードが上がってきたら少しずつジャンルを広げていくのが効率的です。

多読時の注意点として、英語力の向上を目的とする場合は絶対に

日本語に
訳しながら
読んではいけません

日本語に訳さずに洋書を読むコツは、別の投稿で後日説明します。


完読にこだわらない

解決へのステップ3:完読にこだわらない

洋書は和書に比べて高額な傾向があるため、一度読み始めたら途中で止めることに抵抗を覚える人が多いと思います。

しかも、完読しないと途中で投げ出した感じもしますよね。

とはいえ、課題やテスト対策のために「読まなくてはならない」内容でない限り、無理して読むことは多読学習には非効率的です。

なぜなら、

自分が関心を持っていない内容は
頭に入ってこないから

です。

また、分からない部分はとりあえず飛ばして先に進み、後で読みかえすと最初よりよく分かります。

資金が限られていることが原因で、完読しないことに抵抗がある人は、デジタル書籍と図書館を最大限に活用すると良いでしょう。

従来の紙の本に慣れていると、デジタル書籍は読みにくく感じるかもしれませんが、すぐ慣れます。

紙の本に慣れている人がデジタル書籍を読みにくいと感じるのには理由があります。書かれている文字を追う目の動きが紙とデジタルで異なるからです。

デジタル書籍に合った目の動きは脳が勝手に時間とともに学んでくれます。


文学小説は多読に不向き

文学小説は多読学習に不向き

多読用の洋書を選ぶにあたり、避けた方がいいジャンルがあります。

それは

文学小説と詩

です。

文学小説や詩は、書かれた時代や現地の文化を強く反映しているため、対象の時代や文化に関する基本的な知識がないと、内容がすんなりと頭に入りません

例えば、アメリカの奴隷制度をテーマにした文学小説を非英語ネイティブが読む場合は、アメリカの奴隷制度に関する歴史的背景や、アメリカ人が直観的にとらえる感情を理解している必要があります。

逆のパターンを例に挙げます。

Dr. 会社員が大学院にいた頃、とある日本研究グループが「曾根崎心中」の公演を開きました。日本に関心を持つ英語ネイティブの学生で会場は大入りだったのですが、クライマックスの理解に苦しむ人が多かったようです。最後の場面では数秒の沈黙の後、会場が笑いに包まれていました。

「曾根崎心中」の概要はウィキペディアで分かりやすく説明されています。

曾根崎心中
Source: Wikipedia

さらに、Dr. 会社員は以前、「鶴の恩返し」を読んだ英語圏で育った日本人に、「なぜ正体がバレた鶴は、去らなければならないのか?」という質問を受けたことがあります。それは何故か?日本人にしか分からない不思議な理由です。多分これをテーマに博論が書けるほど複雑な事情だと思います。

時代背景や現地の文化に馴染みがない場合は、文学小説や詩などは多読に向きません。


理解しておくべき現実

理解しておくべき現実

洋書の多読は英語力の向上に有効であることは間違いありませんが、留意しておくべき点はあります。

それは原則として、

外国語を読むスピードや理解度が
母国語を上回ることはない

ということです。

先ほど少し触れましたが、外国語の運用能力が母国語に限りなく近くなって初めて、母国語で読むときと同じくらいのスピードで外国語が読めるようになります。

もう一点留意すべきことは、

語学の習得には
とてつもない時間がかかる上、
継続しないと効果がない

ということです。

世の中に英語学習の教材やレッスンが溢れるほど出回っているのは、それだけ日本人にとって英語をマスターすることが難しいから、ということなのです。

日本語と英語の相性が悪いことは
長年の研究で
科学的に実証済みです

この事実は変えられないので、それでも英語力を向上させたいのであれば努力するしかありません。

多読で英語力を向上させるにはとにかく、努力が必要です。

英語の多読だけでなく、何事も極めようとするなら同じです。

スポーツや音楽界で活躍している人たちも皆、常人には考えられないレベルの努力をしています。

小手先のテクニックを使って、あっという間に英語が分かるようになることはありません。

ハーフや帰国子女が自由自在に英語を使いこなしているように一見感じますが、彼らは英語の音になれているため、耳から受動的に入ってくる情報が多く、平易で日常的な表現を使いこなせるのです。複雑な内容になればなるほど、どちらの言語でも理解に苦しむことになるケースがよくあります。

ハーフや帰国子女が翻訳業界に少なく通訳業界に多いのはそのためです。

ほんの少しのコツを
理解した上で、
日々努力を続ける。

多読によって洋書の読解力を上げるには、これが王道で、長期的に最も経済的な方法かと思います。

本ブログでは、Dr. 会社員が今まで読んだ中で面白いと思った良書を紹介しています。

全て海外で見つけた本なので、日本では紹介されていない作品もあるかもしれませんが、興味がある方は是非ご覧になってください。