フリーランス翻訳家を目指す人の中には、実務経験がない状態でいきなり在宅翻訳者としてデビューすることを考えている人が割とたくさんいます。
実務経験がない状態で在宅勤務を狙う時点で既にチャレンジャーな域なのですが、近年は医療をはじめとしたスペシャリスト系の翻訳が儲かる、という噂が巷で広まっているためか、
- 実務経験なし
- 在宅
- 医療翻訳(または他のスペシャリスト分野)
という条件で仕事を探している人が増えているようです。
しかし、この条件はかなり無茶です。
ちょっと考えてみましょう。
目次
専門知識は「教養」とは違う
医療をはじめとするスペシャリスト系の翻訳では、名前の通り、本当に専門知識が必要です。
学校のテストではないので、様々な名称や数字を暗記しておく必要はありませんが、自分が専門と称する分野で取り上げられる事象を正確に理解しておくことは必須です。
医療翻訳の場合、例えば糖尿病に関する領域を専門と言うなら、糖尿病には1型と2型がある、という教養レベルの内容を知っている程度では、スケジュール通りに仕事を完了できません。
病気や人体の構造について講義ができなくても構いませんが、教養よりずっと深いレベルで知っておく必要があります。
知らない内容を読むと、勘違いを起こしがちです。
医療翻訳は需要が高い?人材不足?
医療をはじめとしたスペシャリスト系の翻訳は需要が高いと各方面で言われています。
スペシャリスト系翻訳の発注量が多いのは確かに事実です。
ただ、その一方で、スペシャリスト系の翻訳ができるだけの知識と、商品になる訳文を書くスキルの両方を持っている人が限られている、ということも需要が高いと言われる状況を作っている要因です。
つまり、人材不足のため、実際以上に需要が高く見えているのかもしれない、ということです。
何年も経験を積んだ翻訳者でさえ、自分の専門分野以外は無理、という人はたくさんいます。
Dr. 会社員も、自分の専門以外の分野で高度な案件は、教養として多少知っていても、翻訳の仕事としては引き受けません。
時間がかかりすぎて効率が悪いことと、納品後に修正の依頼を受ける可能性があることが理由です。
在宅で働くということ
在宅フリーランスに仕事を依頼する、というのは発注側にとっては非常にリスキーな行為です。
翻訳会社は、発注先のフリーランスの実力とプロフェッショナリズムを信じて仕事を依頼します。
つまり、
フリーランスとして
一定の経験を積んでいない人
というのは
とんでもなく
怪しい存在なのです
目も当てられない品質の訳文を納品されるかもしれません。
(架空の)ケーススタディーを分析してみましょう。
自分がすし屋を経営しているとします。
ある日飛び込みで、個人経営の魚屋さんが取引の申し込みに来て、試食品を置いていきました。
食べてみたところ、なかなかの味だったとします。
それでも、その魚屋と定期的に取引を開始しようという考えがいきなり頭に浮かぶことはないはずです。
この魚屋の場合は、在宅フリーランスよりまだ有利です。
なぜなら、クライアントに直接会って販売活動できるからです。
在宅フリーランスの場合、相手に見せられるのはメールの文字だけなので、さらに怪しさ倍増です。
翻訳では、未経験で在宅フリーランスを考える人が多いのですが、これはフリーランス界では異例です。
他の業界では、従業員として固定給で働き、社内のポリティックスで消耗するよりも、完全な実力社会にいた方が心の安定を保ちつつ更に稼げると考える人が脱サラしてフリーランスになっています。
このような経緯がフリーランス全員に該当するわけではありませんが、翻訳以外の業界では、未経験でフリーランス(独立プロフェッショナル)になろうとする人は間違いなく少数派です。
英語と日本語のペアの場合は特に、
- 英語は学校で習った
- 日本語は毎日使っている
という状況が、一部の人の間で「翻訳くらいならできるでしょ」という考えを助長しているのでしょう。
まとめ
今回の投稿では、未経験で在宅可の医療翻訳求人などあるのか、というDr. 会社員が抱える疑念について語りました。
あくまでも個人的な見解なので、同意するかどうかは読者次第です。
ただ、翻訳業界では間違いなく二極化が進んでいます。
二極化の厳しい側には、翻訳を甘く見て業界に参入した人がたくさんいると思います。