医療翻訳者になるために、特別な資格は必要ありません。
確かに必要ないことは事実なのですが、この表現には語弊があります。
医療に限らず、特許等、他の分野でも同じです。
翻訳業そのものについても当てはまると思います。
資格が要らないということと、能力を問わず誰にでもできるということは完全に別次元の話です。
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資格が要らないが故に非効率に
「翻訳家に資格は要らない」という文言は、各方面で都合よく解釈されています。
極端な話、「人間なら翻訳は誰にでもできる」と考えている人すらいるように見受けます。
そのため、翻訳に必要なスキルを備えていない人が翻訳会社に殺到し、翻訳会社側での選考が非効率になっています。
また、運命のいたずらでスキルがないのに翻訳会社に登録を果たしてしまった翻訳者(チェッカー)が多数いるため、翻訳プロジェクトの効率にも影響が及んでいます。
スキルに問題がある翻訳者やチェッカーは、あっという間に消息が分からなくなるケースが多いので個人レベルでは大きな問題とはなりません。
しかし、この運命のいたずらが繰り返し発生しているため、翻訳業界全体で非効率な状態が慢性化しています。
近年はクラウドソーシングを始めとした激安翻訳のシェアが(質はともかく)件数ベースで拡大しているので、「資格は不要」の意味を都合よく解釈した人が続々とそちらに流れている様に見えます。
仕事のある翻訳者は高学歴
別の投稿でも説明しましたが、実際に稼いでいる翻訳者の多くはかなり高学歴です。
ただし、学歴があれば翻訳者になれるという単純な因果関係は成立しません。
仕事が途絶えない翻訳者として活躍している人は、そこに至るまでに根気よく学び続けており、学歴はその過程で付いてきただけです。
特に、医療分野の文書を専門として取り扱う翻訳者は、医療関係者や研究者が伝える情報を理解できるだけの知識を持ち、さらに二言語の運用力を備えています。
翻訳者は医師や看護師、薬剤師が持つスキル全てを備えているわけではありませんが、コミュニケーションというレベルでは、こういった職業の人が伝えんとする内容を完全に理解できるだけの知識を有しています。
資格が不要と雖も
医療分野を専門とする翻訳者になるには
相当な時間と努力が必要です
むしろ、医療専門職の方がそれぞれの学校や資格制度があるので、何をどの程度勉強すべきかがはっきりしており、なれるかどうかはともかく、医療翻訳者よりも目指しやすいと言えます。
医療翻訳者養成コースなるものが次々と開設されていますが、こういったコースでは医療翻訳者と呼ばれる人が現場でどのような文書を取り扱っているのか、という概要を知るに留まるのではないかと思います。
もちろん、受講したら受講したなりの知識は得られるとは思いますが、医療専門職に携わる人達が大学や専門学校で学んだ内容と同じ内容を民間のスクールに通い短期間で学ぶというのは、どう考えても非現実的です。
まとめ
今回の投稿では、「医療翻訳者に資格は必要ない」という表現には語弊がある、ということを説明しました。
医療に関する内容を翻訳するには、医療に関する知識があることが大前提です。
辞書や単語帳を見ながら言葉を置き換えるだけでは、読み手が理解できる訳文は書けません。
また、オンラインの辞書を始めネットで見つかる情報には、一見信頼のおけそうなサイトであっても不正確なものがあるので、正しい情報を選別できる知識も必要です。
医療に限らずあらゆるジャンルの翻訳で、語学検定の点数が高いだけの人が訳した文章は見てすぐ分かります。
言葉や文法構造を置き換えただけで意味が伝わらない、あるいはとんでもない誤訳に繋がるものが多いので。
例を挙げると、Dr. 会社員は以前、薬の「administration」を常に「内服」と訳してしまう翻訳者さんを目にしたことがあります。
医療翻訳では、医学の知識がなく語学が堪能な人より、語学が苦手な医療専門職が訳した文章の方が現場で使い物になる可能性が高いと言っても過言ではありません。